読書記録:書評・要約|BRAIN BOOST デビッド・ロブソン

BRAIN BOOST デビッド・ロブソン

本書は、脳が周囲の環境や内部の状態を予測しながら機能する「予測マシン」としての性質を解明するものである。この予測機能が、感覚、治療、痛み、健康行動、意志力、創造性など、あらゆる面で私たちの体験を形作るという観点から、多くの生活分野を分析している。以下に、本書の各項目ごとに「予測マシン」の考え方を整理し、それぞれのテーマについてまとめる。

著者名、書名、出版者、出版年、総ページ数は以下のとおり。

デビッド・ロブソン、BRAIN BOOST(ブレイン・ブースト) 脳を変える究極のマインドセット、二見書房、2024年6月、320p

1. 感覚的な世界について

脳は感覚データをそのまま受け取るのではなく、過去の経験や予測をもとに「仮想現実」を構築している。このため、私たちが見たり感じたりする世界は、実際には脳のシミュレーション結果であることが多い。

要点:

  • 感覚は脳の推測によるものであり、錯覚や誤解が生じるのは自然な現象である。
  • 私たちが「現実」と思っているものも、必ずしも正確ではない。

考え方のヒント:

  • 自分の客観性を疑う: 「目撃者としての自分」の視点に頼りすぎず、脳のシミュレーションが間違っている可能性を認める。これにより、錯覚に気づきやすくなる。
  • 感情の影響を認識する: 「何をやってもうまくいかない」と感じる日は、自分の気分や予測が出来事の捉え方を歪めている可能性を考える。出来事を客観的に捉え直すことで、ネガティブ思考から抜け出せるかもしれない。

2. 治療と治癒について

治療の効果や回復には、脳の予測や期待が大きく関与する。プラセボ効果やノセボ効果(治療が害をもたらすという思い込みの影響)は、その予測が実際の身体反応を変化させる具体例である。また、治療を提供する医療従事者との関係性や治療への理解も、回復に影響を与える。

要点:

  • 治療に対するポジティブな期待が、脳の予測を通じて回復を促進する。
  • 医療従事者の態度や治療の理解度が、治療効果に直結する。

考え方のヒント:

  • 期待をポジティブにする: 治療の効果を最大化するために、「この治療は自分に効く」という前向きな姿勢を持つ。
  • 共感的な医療従事者を選ぶ: 医療従事者の選択肢がある場合、共感的で思いやりのある人を選ぶことで、治療に対する信頼感が高まり、回復が促進される可能性がある。
  • 治療の仕組みを理解する: 自分が受ける治療のメカニズムや効果について正しい知識を増やすことで、脳が治療を「有効である」と予測し、効果が高まる可能性がある。

3. 痛みや不快感について

痛みや不快感は、脳が身体の状態を保護するために作り出す予測の一環であり、必ずしも外部の物理的要因によるものではない。心理的な要素や環境が、痛みの強さや体験を大きく左右する。

要点:

  • 痛みは、脳が危険を予測して身体に警告を発するための反応である。
  • 痛みの強さは、心理的なストレスや文脈によって増減する。

考え方のヒント:

  • 環境や文脈を調整する: 治療や薬の副作用やリスクをリフレーミングする。また、心地よい環境やポジティブな思考を作り出すことで、脳の痛み予測を緩和する。
  • 痛みに集中しすぎない: 注意を別の活動に向けることで、脳が痛みを優先的に処理するのを防ぐ。

4. 健康不安について

健康不安は、脳が身体の小さな変化や感覚を誤解し、重大なリスクとして予測することによって生じる。不安そのものが身体の不調を増幅し、悪循環を生むことがある。

要点:

  • 健康不安は、脳が過剰なリスク予測を行うことから生じる。
  • ネガティブな思い込みが実際の症状を悪化させる可能性がある。

考え方のヒント:

  • 信頼できる情報を活用する: 健康に関する記事には批判的な態度をもって対峙する。医療の専門家や信頼できる情報に基づいて判断し、体験談や個人的なエピソードに頼ってはいけない
  • 不安の連鎖を断つ: 集団心因性疾患が起こりやすい特定の状況を覚えておく。例えば、政治的な不安の高まり、新技術の導入、新たな医療行為の採用など

5. 運動などの身体活動について

運動は、脳の予測を更新し、身体や精神の状態をポジティブに変化させる強力な手段である。身体活動を行うことで、自己効力感や幸福感が高まり、脳のパフォーマンスも向上する。

要点:

  • 運動は、脳の予測機能を改善し、体力や精神状態を最適化する。
  • 身体活動による達成感は、脳が予測を修正する重要なきっかけとなる。

考え方のヒント:

  • 短期的な目標を設定する: 運動を始める前に目標を定める。大きな成果を求めるよりも、小さな目標を達成することで、脳がポジティブな予測を作り出す。
  • 運動を楽しむ: 楽しいと思える活動を選ぶことで、運動に対する脳のポジティブな期待を育てる。通常の活動(家事、通勤など)にも目を向けることで、その活動による生理学的効果を高めることができる

6. 食事やダイエットについて

食事に対する期待や認識は、脳の予測を通じて実際の満足感や健康効果に影響を与える。ポジティブな思い込みが、ダイエットや健康促進に寄与することもある。

要点:

  • 食事の効果は、実際の栄養価だけでなく、脳がその効果をどう予測するかによって変わる。
  • ダイエットの成功は、過度な制限ではなく、持続可能な習慣の形成にある。

考え方のヒント:

  • 「健康に良い」という信念を持つ: 食べ物に対してポジティブな期待を抱くことで、脳が食事の満足感を得やすくなる
  • 厳しすぎるルールを避ける: 食事中は食べているものに集中することで満腹感を得やすい。また、たまのご馳走にも罪悪感を抱く必要はない。過度な制限はストレスを増やし、脳の予測をネガティブな方向に誘導するため、バランスの取れた方法を選ぶ

7. ストレス、睡眠、幸福について

ストレス、睡眠、幸福は、脳の予測モデルに大きく依存している。特に、ストレスは脳が状況を「脅威」または「挑戦」としてどう予測するかでその影響が異なる。

要点:

  • ストレスを「挑戦」として捉えると、脳の反応がポジティブな方向に変化する。
  • 良質な睡眠は、脳の予測を最適化し、感情や思考の安定をもたらす。

考え方のヒント:

  • ストレスをリフレーミングする: 難題を「学びの機会」と再解釈することで、脳の反応を調整する。
  • 睡眠習慣を見直す: 一貫した就寝時間やリラックスできる夜のルーチンを作ることで、脳の予測が安定しやすくなる。

8. 意志力について

意志力は脳がエネルギー消費を予測しながら調整する機能である。意志力が尽きると感じるのは、脳が限界を「予測」しているにすぎない。

要点:

  • 意志力は固定されたものではなく、脳の予測次第で増減する。
  • 自己効力感を育てることで、意志力を維持しやすくなる。

考え方のヒント:

  • 自己コントロールをする: 自分の行動をコントロールできていると感じることで自我の消耗感を低減できる。指示されてやることについてもルーティーンとして自分の意思でやっていると考えると良い
  • フレーミングを活用する: 「やりたくない」という気持ちを「小さな一歩から始める」に変換することで脳の予測を緩和する。
  • 意志力を過信しない: 意志力が有限であることを認め、環境の工夫や習慣化を通じて補う。

9. 知能、学習、創造性について

学習や創造性は、脳が予測モデルを更新し、新しい情報を統合する過程で促進される。意外性や驚きのある情報が、脳の予測を大きく変えるカギとなる。

要点:

  • 学習は、脳の既存モデルに新たな情報を加えることで進む。
  • 創造性は、既存の予測モデルを壊し、新たな視点を構築することで生まれる。

考え方のヒント:

  • 成長余地の顕在化: 自分の能力でネガティブに評価している部分を、正当な理由があるか考える。成長余地がある分野があればコンフォートゾーンを超えて挑戦をする。フラストレーションがたまる場合は、成長過程であることを認識することでパフォーマンスが向上する
  • 驚きを取り入れる: 予測外の情報や新奇な視点を学習に加えることで、脳が効率よく情報を統合できる
  • 失敗を恐れない: 新しい試みを行うことで、脳が柔軟な予測モデルを形成する

10. 加齢と老化について

老化は脳の予測にも影響を与え、身体の変化や健康状態を左右する。ネガティブな老化観念は、予測を通じて実際の身体機能を悪化させる可能性がある。

要点:

  • 老化に対するポジティブな視点が、健康寿命の延長に寄与する。
  • 身体活動や社会的つながりが、脳の老化予測を改善する。

考え方のヒント:

  • 老化観念を変える: 「年を取ることで成長する」など、ポジティブな信念を持つことで脳の予測を改善する
  • 行動を続ける: たとえ小さな努力でも、日々の活動が脳の予測にポジティブな影響を与える

デビッド・ロブソンの『BRAIN BOOST』は、脳の「予測マシン」としての性質が、私たちの感覚、行動、健康、感情にいかに影響を及ぼすかを多角的に示している。本書の各項目を通じて、脳の予測をより良い方向に誘導することが、幸福で健康的な生活を送るための鍵であることが明らかにされている。脳の予測を意識的にコントロールする方法を学ぶことで、日常生活や健康管理、さらには人生全般において大きな成果を上げることが可能となる。