読書記録:書評・要約|CHANGE 組織はなぜ変われないのか ジョン・P・コッター

1. 概要

『CHANGE 組織はなぜ変われないのか』は、組織論の権威であるジョン・P・コッター氏とその共同執筆者が、現代の組織が直面する変化への対応力不足に焦点を当て、その解決策を提示する一冊である。本書は、コロナ禍やテクノロジーの進化、経済環境の急激な変化といった現代の課題において、組織がいかに柔軟性を持ち、成長し続けるための道筋を示している。

著者は、組織が変わるためには、単なるトップダウン型の変革ではなく、従業員一人ひとりが主体的に関与するボトムアップ型のアプローチが必要であると述べる。特に本書の中心概念である「デュアル・システム(Dual Operating System)」は、従来の階層型の組織構造を補完する形で、柔軟で創造的なネットワーク型のシステムを導入することを提案する。このアプローチが、激動の時代における組織の競争力を高める鍵となる。

そのための具体的な理論と実践的なツールが、本書の大きな特徴である。

書籍情報:

  • 著者名:ジョン・P・コッター、バネッサ・アクタル、ガウラブ・グプタ
  • 書名:CHANGE 組織はなぜ変われないのか
  • 出版者:ダイヤモンド社
  • 出版年月:2022年9月
  • 総ページ数:282ページ

2. 組織変革の壁:なぜ変われないのか

1. 生存チャネルの優位性

多くの組織は、日々の業務(生存チャネル)に注力するあまり、未来に向けた新しいアイデアや戦略を追求する余裕がなくなる。これが組織変革の大きな障壁となっている。

2. 心理的な抵抗

変化に伴う不確実性やリスクへの恐れは、人間の本能的な反応である。この「恐怖の壁」を乗り越えるには、心理的安全性を確保し、変化をポジティブに捉える文化を醸成することが必要である。

3. トップダウン型アプローチの限界

トップダウン型の指示に頼る従来の方法では、従業員が主体的に変革に参加することが難しい。これにより、変革が一時的なものに終わり、持続可能な成果に結びつかない。

3. デュアル・システム:変革を成功に導く鍵

本書の最大の特徴は、デュアル・システム(Dual Operating System)の概念である。著者は、組織が持続的に変化し、成長するためには、以下の2つのシステムが必要であると提唱する:

1. 階層型システム(Hierarchical Operating System)

従来の階層型の組織構造は、効率性を重視し、日々の業務を管理するために最適化されている。このシステムは、安定性と生産性を確保する役割を果たすが、柔軟性には欠ける。

2. ネットワーク型システム(Network Operating System)

ネットワーク型システムは、柔軟性と創造性を促進するための仕組みである。このシステムでは、従業員が自由にアイデアを出し合い、協力して新しいプロジェクトを推進する。

デュアル・システムの利点:

  • 階層型システムが組織の日常業務を維持する一方で、ネットワーク型システムが未来志向のイノベーションを推進する。
  • 2つのシステムが補完し合うことで、変化への適応力が飛躍的に向上する。

4. 繁栄チャネルと生存チャネル:2つのエネルギーのバランス

デュアル・システムを支える概念として、著者は「繁栄チャネル(Prosperity Channel)」と「生存チャネル(Survival Channel)」を提唱している。

1. 生存チャネル

生存チャネルは、日常業務やコスト削減、短期的な目標に焦点を当てる。これは、組織が即時的な安定を保つために必要不可欠である。

2. 繁栄チャネル

繁栄チャネルは、長期的な成長やイノベーションを追求するエネルギーを指す。このチャネルが活性化することで、組織は未来のチャンスを掴む準備が整う。

5. 持続可能な変革を実現するステップ

1. 小さな成功体験を積み重ねる

大規模な変革を目指す前に、小さな成功体験を積み重ねることで、組織全体に「変化は可能」という信念を醸成する。

2. リーダーシップの分散化

変革のリーダーシップを特定の個人に限定せず、組織全体に広げることで、全員が主体的に取り組む環境を作る。

3. コミュニケーションの強化

変革の過程で、全員が共通のビジョンを共有できるように、双方向のコミュニケーションを徹底する。

4. 変革を文化に根付かせる

一時的な施策として終わらせるのではなく、変革を組織の文化や価値観の一部として定着させることが重要である。

6. まとめ

本書は、急速に変化する現代において、組織がいかに柔軟性を持ちながら持続可能な成長を実現するかを具体的に示している。特にデュアル・システムという新しい概念は、従来の組織論に革新をもたらしている。

『CHANGE 組織はなぜ変われないのか』は、変化を恐れる現代の組織にとっての指針となる一冊である。デュアル・システムの考え方や、心理的安全性の重要性は、どのような業界にも応用可能な普遍的なアイデアである。本書を通じて、変化をポジティブに捉え、持続可能な成功を目指すためのヒントを得られるだろう。