プライベートエクイティファンドの面接
プライベートエクイティファンドの選考プロセスの一例は以下の記事にも記載したが、
本記事では、私が経験したいくつかのファンドの面接で実際にあった質問の内容をお伝えしたい。加えて、面接を突破した際の私の回答方針やその前提となる知識を得るための書籍等もご参考までにご紹介したい。
プライベートエクイティファンドの面接における質問
プライベートエクイティファンドの面接では、当然ファームや面接官によって特色はあるものの、複数のファームの面接を受けた私個人の経験を総合すると、基本的な質問は非常に似たものが多く、概ね以下の内容の質問にまとめることができる。
もちろんこれ以外のかなり特殊な質問もあったが、それを体系的にまとめることは困難なため、一旦上記の質問について具体的な内容や実際に私が回答した方針や考え方をまとめてみる。スキルチェックや特殊な質問については別途記事をまとめる予定である。
自己紹介
最初の質問は、どの業界における面接でもそうだと思われるが、簡単に自己紹介をしてほしいと言われる。基本的には職務経歴書や履歴書に沿って、自分の経歴を数分でまとめて話すことで問題ない。その中から面接官が気になった事柄を随時質問してくる場合もあるが、以下でまとめている質問がほとんどであるので、その質問に対する回答方針を持っておけば対応できるかと思う。
過去のディール経験とその中の役割について
自己紹介で説明したディール経験や職務経歴書に記載されているディールについて深く質問される。その中でも多い質問が以下のものである。
- 過去経験したディールのなかで最も成果をあげられたものはどのようなものか
- それぞれのディールにおいて具体的にどのような役割を担ったか
- ディール中の想定外の困難な事象に対してはどのように対応したか
職務経歴書には、もちろん嘘を記載する人はいないと思うが、多少見栄えの良い文言を並べることが多いと思う。そういった点についてこのような質問をすることで、どこまで実際に主体的にディールに関わっていたかが炙り出されることになる。
これらに対しては、自分の言葉で具体的に真実を伝えるほかはないが、その後の志望理由やプライベートエクイティ業務に貢献できる内容に繋がるようなエピソードを交えると、面接官の納得性を得やすい。
転職活動の理由
プライベートエクイティファンドに応募される方は、往々にして素晴らしい経歴で現職でも活躍されているはずなので、なぜそのような状況においてこのタイミングで転職をするのかという質問をされることが多い。
これに対しては、志望理由とあわせて合理的かつ前向きな理由を述べる方が良いと考えられる。
なぜプライベートエクイティファンドか
一般的な志望動機の質問ではあるが、プライベートエクイティ業務の理解度やプライベートエクイティ業務への熱意を確認する質問である。
IB出身者やコンサル出身者のよくある回答として「より経営に近いサイドでの業務に興味を持った」というものがあるが、それに対しては必ず「プライベートエクイティである必要がないのでは」、「商社等事業会社の事業投資部門やベンチャーのほうが近い仕事ができるのでは」という切り返しを受けることとなる。
これに対しては、会社の事業のための事業投資と純投資であるプライベートエクイティ投資の違いという切り口や、リスクの取り方の違い、ジュニアでの裁量の大きさの違い、ベンチャーと成熟した会社のフェーズの違い等の観点から、プライベートエクイティでしか自分のやりたいことが達成できないことを合理的に説明する必要がある。
なぜ当ファンドか、他にはどのようなところを受けているか
選考中のファンドの理解度やファンド選択の軸、他社と比較するポイントや価値観を確認する質問である。
当然であるが、ファンドの投資方針やポートフォリオを確認のうえ、志望理由との整合性のあるファンド選択の軸を説明する必要がある。他社の受験状況については、個人的には全てを話す必要はないと考えるが、ファンド業界は狭い世界で横同士がつながっていることも多いので、嘘をつくことだけは避けるべきである。
プライベートエクイティ業務において貢献できる内容
プライベートエクイティ業務の理解度を問うとともに、即戦力であるかどうかを確認する質問である。
これに対しては、過去のディール経験や業務を通じて獲得したスキルが、プライベートエクイティ業務のどのようなフェーズにおいてどう貢献できるかを具体的に答える必要がある。
IB出身者であればFA業務等のディールを回す経験やモデリングのスキル、コンサル出身者であればPMIや企業価値向上に資する具体的な戦略実行支援の実務の経験は当然のこと、対象会社の社長とのコミュニケーション経験やディールソーシングの経験があればアピールするとよいと考える。
プライベートエクイティ業務において重要な資質は何と考えるか
この質問は、ディレクターレベルでは聞かれた経験はないが、代表パートナーを含む複数のファンドのパートナーから何度か聞かれたものである。
これが正答という質問ではないと思うが、ファイナンス知識等のハードスキルではなく、ソフト面での回答をするべきと思われる。
私が回答した例としては、プライベートエクイティは地道な業務が多く必要な知識も広範囲に渡ることから真面目さや知的好奇心、対象会社とのコミュニケーションが非常に重要であることから素直さや謙虚さ、ファンドとして継続してリターンを得るために必要な判断をしていくためにはチームへの正確な情報共有が不可欠であることから正直さと迅速な意思決定力という内容を、もう少しロジカルに肉付けして話したように記憶している。
どういった投資をしたいか
実際に投資のイメージを持っているか、投資仮説を合理的に説明できるかを確認する質問である。
こちらの質問も正解があるわけではないが、過去のPEファンドの成功事例や興味のある分野を深堀りし、マーケット動向やバリューアップの考え方、M&AやIPOのバリュエーション水準から、投資からExitまでのストーリーが説明できると良いと思われる。
ある企業を買収する際の買収金額はどのように算定するか
バリュエーションの基礎知識及び投資リターンを得るための買収金額の考え方を問うものである。
プライベートエクイティファンドのバリュエーション手法はシンプルで、Exit時の想定株式価値の算出にDCFを用いることはほとんどなく、基本的にはマルチプル法を利用し、ハードルレートで割り引いて買収金額を決定するというものであるため、手法を詳しく答えるよりも、マルチプル法のベースとなる事業計画数値の考え方を説明する方が良いと考える。
企業価値向上の源泉は何と考えるか
教科書的に言えば、①人材の投入やガバナンス強化によりトップラインの伸長やコストカットを行い利益を拡大させる、②ポートフォリオ間の取引や海外展開、M&Aロールアップ等の横展開による事業成長性の向上からマルチプルを増大させる、③LBOファイナンスによるレバレッジ効果という答えとなると思われるが、過去のPEファンドの成功事例も踏まえて具体的な内容を説明できると良いと考える。
PEファンドの成功事例は何か、またその理由は
成功事例については、別記事でご紹介する書籍等から興味のあるディールを調べておけば良い。成功の理由としては、当然PEファンドの使命であるLP投資家へのリターンの提供が大きかった点が挙げられるが、それは大前提として、PEファンドが入る前と後で対象会社やその役職員、取引先等のステークホルダーにとってどう良かったかが説明できると良いのではと考える。
10年後にどうなっていたいか
この質問は、単純にキャリアをどのように考えているかを確認するための趣旨もあるが、ファンド側からすると長期でコミットする人間を採用したいため、その点を確認する質問であると考えられる。
そのため、志望理由にも少し関係するが、経営に興味があるのでゆくゆくは事業会社でマネジメントをしたいという内容を答えるのはあまり好ましくないのではと考える。
私は、一貫して「次号ファンドの立ち上げにも積極的に関与し、パートナーを目指したい」と答えていた。
自分の強みと弱みは何か
就職活動でもよくある質問ではあると思うが、意外にプライベートエクイティファンドの面接でもよく聞かれる質問であった。
自分を客観視できているかを問う質問だと思われるが、自分の言葉で具体的な事例とともに答えれば問題ない。強みがプライベートエクイティ業務に重要な資質にリンクするようであればなお良いのではと考える。
個人的な失敗としては、弱みについて強みとも弱みともとれるような説明をしたところ、「本当に弱みと思って話していますか」と突っ込まれたことがあるので、コミュニケーション能力がない等プライベートエクイティ業務に致命的な内容でない限りは、素直に話すのが良いと思われる。
質問は何かあるか
プライベートエクイティファンドの面接では、どのフェーズの面接でも必ず質問の時間が設けられる。そのため、私は面接官の経歴や職位にあわせて毎回10個以上の質問を事前に準備し、面接に臨んでいた。
実際に私がした質問をご参考までに記載するが、他のファンドで聞かれて答えに窮したものをまた違うファンドの面接で質問したこともある。
- どのような人物を採用したいか、採用してきたか
- ファンドの今後のビジョンについて教えてほしい
- バリュエーションの考え方を教えてほしい
- GP株主からの独立性はどのように維持しているか
- 投資判断をする中で、経営者のどのような点をみるか
- ソーシングはどのように行っているか
- 投資のサイズや業種に制限はあるか
- 他のファンドとの差別化要因は(自分はこう考えているが)どうか
- ポートフォリオの一社について、(自分はこのような投資ストーリーと考えているが)実際はどのような考えで投資したのか
- 投資後のハンズオンはどのようにしているか
- (ホームページに情報がないファンドについては)メンバー構成及び経歴は
- プロモーションの基準を教えてほしい
- 投資の意思決定の際のポイントを教えてほしい
以上がプライベートエクイティファンドの面接における質問とその回答方針であるが、背景となる業界知識やPEファンドの過去事例を知っておくことに越したことはなく、下記の記事でご紹介する業界知識・財務知識に関する書籍や経営戦略・論理的思考能力に関する書籍が参考になるので、ご一読いただくと良いと思う。